※所属・肩書は掲載当時のものです。
1、はじめに
2022年4月、名古屋証券取引所(以下、名証)は上場制度の見直しを行い、新たに生まれ変わります。
2、市場の見直し内容について
現在の名証一部、名証二部、セントレックスという市場名は、プレミア、メイン、ネクストに変わります。変わるのは市場名だけではありません。コンセプトなども大きく変わります。
さて、タイミングを同じくして東証市場再編が行われるため、再編後の東証市場と当社新市場を比較しながら説明したいと思います
(1)プレミア市場と東証プライム市場について
こちらの市場に直接IPOをする企業は数少ないと思いますので、参考程度にしてください。
上場時価総額基準はどちらの市場も「250億円以上」となっています。また、上場時価総額の他に、「収益(2年間の利益合計が25億円以上)」や「財務状態(純資産50億円以上)」の基準も同じですので、上場する「企業の規模感」は同格と考えます。
ただし、東証プライムは「海外の機関投資家」、名証プレミアは「国内の個人投資家」がメインの投資家と考えておりますので、両市場ともにコーポレートガバナンス・コードは全原則適用されますが、東証プライムはさらに「英文開示」「独立社外取締役3分の1以上」など、より一段高いガバナンス水準が適用されます。
(2)メイン市場と東証スタンダード市場について
こちらは(1)と異なり、上場する「企業の規模感」に違いがあると考えます。具体的には、メイン市場が「上場時価総額10億円以上」を求めているのに対し、東証スタンダード市場は「流通株式時価総額10億円以上」かつ「流通株式比率25%以上」ということなので、計算上、「40億円程度」が全体の時価総額の最低ラインだと考えます。
また、東証が新規上場基準と上場維持基準を「共通化した」ことには留意すべきです。東証市場再編前は、新規上場基準と上場維持基準の間に一定のバッファがありましたが、東証市場再編後はバッファがありません。
従来であれば、新規上場基準をギリギリ満たして上場しても、株価が半分になるまでは上場維持基準に抵触する恐れはありませんでしたが、今後は、新規上場基準ギリギリで上場すると、上場直後から上場維持基準に抵触する恐れがあります。
例えば、従来のように株価が半分になるまでは上場維持基準に抵触する恐れはないという安心感を持って上場するには、東証スタンダード市場の場合「流通株式時価総額20億円」が必要となりますが、「流通株式比率25%以上」にて計算すると、必要となる全体の時価総額は、、、、(ご自身で計算してみてください。)
なお、名証はメイン市場の時価総額の新規上場基準は「10億円以上」ですが、上場維持基準は「5億円以上」と、新規上場基準と上場維持基準を「共通化していません」。「短期的」な株価に必要以上に振り回されることなく、「中長期的」に企業価値の向上を図っていただくためにバッファを設けているとご理解ください。
(3)ネクスト市場と東証グロース市場について
(2)同様、上場する「企業の規模感」に違いがあると考えます。具体的には、ネクスト市場は「上場時価総額3億円以上」を求めているのに対し、東証グロース市場は「流通株式時価総額5億円以上」かつ「流通株式比率25%以上」ということなので、計算上、「20億円程度」が全体の時価総額の最低ラインだと考えます。ただし、繰り返しになりますが、東証は新規上場基準と上場維持基準を「共通化した」ことにご留意ください。
また、コンセプトにも大きな違いがあります。両市場ともに「事業計画及び成長可能性に関する事項」の開示は求めますが、その事業計画に盛り込むべき成長可能性は、東証グロースは「高い」成長可能性、名証ネクストは「着実な」成長可能性です。
つまり、東証グロースは、世の中の仕組みを変えるような、事業の急成長ストーリーを描けるビジネスモデルの企業を主なターゲットにしているのに対し、ネクスト市場は、例えばフロー型のビジネスモデルの会社などで、Jカーブのような急成長は描きづらいが、着実な成長が見込まれる企業も対象にしているということです。
投資家をミスリードするような、数字ありきの事業計画には全く意味がありません。自社の自然体な成長ストーリーが、どちらの市場コンセプトに適しているのかを考えてみてください。
3、最後に
私どもは東証に次ぐ全国2番手の証券取引所として、「東証だけではない、IPOマーケットの選択肢を提供する」という理念の下、東証とは違うコンセプトの市場を提供しています。今回のコラムをきっかけに「名証を選択肢の一つ」としてご検討くださる企業が一社でも増えればうれしく思います。ご不明な点がありましたら、お気軽にEmail: もしくはQRコードまでご連絡ください。お待ちしております。
鈴木武久氏(株式会社名古屋証券取引所 取締役)
1989年名古屋証券取引所に入所。上場監理グループ長(2002年~)、自主規制グループ長(2003年~)を歴任し、2013年より執行役員、2019年より取締役。名証では、上場審査をはじめとする上場関連業務に長らく携わっており、過去に担当した上場審査案件は100社を超える。
2021/10/08 発行 IPOかわら版【第50号】掲載