2019年上場企業の業績から考えるIPO準備について

執筆者:隅屋彰則氏(株式会社船井総合研究所 金融・M&A支援部)

※所属・肩書は掲載当時のものです。

コロナ過で上場取消が目立ったIPOマーケットでございましたが、最近では、再上場や新規上場する企業も増えてきました。今回はこれからIPOを検討、再考される方向けに2019年のデータから考えるIPO準備についてお伝えいたします。
 
「どの程度の業績があれば上場できるの?」これはIPO準備を検討中のお客様からよく聞かれる質問の一つです。2019年でいえば、名刺管理サービス等を提供するSansan、クラウド会計ソフトのfreee(フリー)など、CMでもよく目にするSaaS企業の上場が目立ったIPO(新規上場)業界でしたので、「新規上場は、規模が大きい会社やIT企業がするもの」というイメージを持たれている方も多いのではないでしょうか。
 
実際のところ、2019年上場企業の「業績」にスポットを当てて見ていきますと、上場企業86社のうちマザーズやジャスダック、地方市場も含めた新興市場に上場した会社は73社。この73社のうち、経常利益2億円未満で上場した社数は半数以上の39社、つまり、3社に1社は経常利益1億円未満で上場しております。
 
さらに深堀していきますと、上場には監査法人による監査期間が2期間必要であり、監査法人との契約する期(N-3)が上場準備を本格的にスタートする期となりますが、N-3期の業績を見てみますと、なんと55社が経常利益2億円未満であり、1億円未満で数えても44社、うち赤字が21社でした。売上規模においてもスモールスタートの10億円未満が36社ありました。つまり、昨年の新興市場に上場した企業を例に見ますと、約半数の上場企業が「売上高10億円未満」、「経常利益1億円未満」でIPO準備へと舵を切り、本格的な準備をスタートさせたことが分かります。おそらく皆様がイメージされている規模感とは少し違ったのではないかと思います。
 
IPOを目指すにあたり、近年は「監査難民」という言葉が示す通り、監査法人との監査契約が難しい状況下にあり、監査法人との契約を結ぶための営業や準備なども含めて、最低3年~5年の準備期間が必要と言われております。したがって、3年~5年後に自社の業績をどの程度の規模まで成長できそうか?について予測してみた場合に、仮に業績を大きく伸ばせそうな見込みがある場合は、早期に社内体制の整備に着手いただくことで上場のチャンスを逸することを防げます。
 
いかがでしょうか。IPO準備の情報を確認しようと思っても、IPOについて書かれた書籍が少なかったり、身近にIPOについて詳しい人がいなかったりと、最新の情報を得られず、意思決定に踏み切れないケースもあるかもしれません。
 
ただ、なんとなくハードルが高そう、デメリットが多そう、とIPOを事業計画の選択肢から外してしまっている方は、もしかすると、会社の更なる発展の可能性を自ら捨ててしまっている可能性もあります。これを機に、是非一度自社のIPO実現の可能性をお考えになってみてはいかがでしょうか。
 

2020/07/10 発行 IPOかわら版【第45号】掲載

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