執筆者:吉岡亮治氏(悠和会計事務所代表 公認会計士・税理士)
※所属・肩書は掲載当時のものです。
3. 投資家層(属性)
一口にファンドといっても、投資家の目的やスタンスは大きく異なります。受け入れる会社は、投資家が何を最優先と考えているのか見極めることが重要です。投資家の代表的な例を挙げてみます。
① プライベート・エクイティ(PE)ファンド:年利最低10数%以上のキャピタルゲインを狙う投資家層です。
② 金融機関等:比較的安定した配当利回りを求める年金基金や、特定の産業・地域を支援したい銀行など、必ずしも高いリターンを目当てとしないケースも見られます。
③ その他:上場株や不動産以外に分散投資したい個人投資家や、同業種で独自のノウハウを有する事業会社など様々なパターンがあります。
4.ファンドを受入れるための準備
ファンド出資を受ける前に会社がすべき準備や検討事項として、以下が挙げられます。
① 将来資本構成:① 将来資本構成:ファンドから出資されることで、創業者等の既存株主はどの程度までなら所有割合ないし議決権の低下を許容できるか、今後必要となる資金調達の金額も見据えながら資本構成を見直すことが最重要です。
② オーナー・経営者との貸し借りの清算:第三者であるファンドから出資、ときには経営参画もある以上、オーナー・経営者が会社を私物化していると見られかねない取引は慎むべきでしょう。会社との間で債権債務が残っている場合、なるべく早期に清算しておくのが望ましいといえます。
③ 簿外資産負債のオンバランス化:決算書から隠れた資産や負債があれば、できる限り帳簿に計上することで、財産や経営状況についてファンドと同じ目線で公正な価値判断が可能となります。未払給与や訴訟といった債務はもちろん、一括で費用処理している生命保険料や共済掛金のような資産項目の有無も点検してみましょう。
5.実際にファンドと契約する場合の留意点
最後に、ファンドとの出資契約について本格的に検討・交渉する際の留意点等を解説します。
① ファンドの属性チェック:多くの場合、ファンドやその裏にいる投資家の素性について正確に把握するのは困難です。それでもファンド運用者への質問、調査機関への照会等は怠るべきではありません。なお、ファンド運用者がライセンス(投資運用業等)の保持者であれば、投資家の反社チェックなど一定程度のリスク管理がなされていると推測できます。
② 出資条件の精査:「5年以内に上場できない場合は会社がファンドの持分を買取る」、「業績や純資産等の指標が目標水準を下回る場合は追加出資を受入れる」といった条件をファンドから提示されることがあります。弁護士等を交えて慎重に検討を重ねるべきです。
③ 定期的なコンタクト:出資を受入れた後も、ファンド運用者への報告や定期的なコンタクトは欠かせません。コミュニケーション不足が投資撤退を招いた例もあるため、丁寧な投資家対応を心掛けましょう。
2020/01/10 発行 IPOかわら版【第43号】掲載