上場準備の重要なポイントについて

執筆者:多田恵一氏(コンパッソ税理士法人 東京本社 コンサルティングチーム シニアマネージャー)

※所属・肩書は掲載当時のものです。

 私が上場準備をサポートした事例の中で気づいた重要なことは、事業展開、資金調達と資本政策、内部管理体制の整備の3つをバランス良く行うことです。この中で今回は、事業展開及び資金調達と資本政策の2つについて触れます。
事業展開においては、上場後までの成長シナリオ、組織・人材力の養成、リスク要因への対応の3つが大切です。株式上場を果たしたものの上場後に業績も株価も低迷しているケースでは、その要因として、
 ①上場自体が目的となってしまい、上場後の成長に向けたシナリオが事実上なかったこと
 ②余裕のある上場ではなく無理をした上場だったため、成長シナリオが実行できる組織力・人材力がなかったこと
 ③上場準備の中で、事業継続や成長に関するリスク要因に対して十分な対応がとれずに、上場後にリスクが顕在化してしまったことが挙げられます。
 なお、成長シナリオでは、自力での事業拡大だけでなく、他社買収による事業拡大という選択肢もありますが、買収後の統合実務を考えると、組織・人材力に余裕のある場合に限定されます。
 資金調達と資本政策においては、上場に向けて事業展開を加速したい場合、資金調達が不可欠となりますが、収益による自力での資金創出には限りがあるので、借入金と増資のバランスをとることが大切です。増資≒資本政策では、安定した経営権、すなわち持株比率で5割超をオーナー一族が確保することが重要なポイントです。これに非同族の役員と従業員の社内勢力を加えて、特別決議を可決できる2/3超を確保したいところです。
 増資による資金調達は、こうした経営権の確保を念頭に、株主構成、持株比率及び株価形成を勘案しながら立案する必要があります。上場はできたものの、資本政策面で経営権の確保に失敗するといったことは避けたいものです。
 これらの事例から「反面教師」として学べる事は、
 ①無理な上場はしないで、上場前にこそ組織力の養成やリスク要因への対応をキチンとすること
 ②上場後の成長シナリオまでしっかり事前検討しておくこと
 ③上場後に発生するリスク要因にも機敏に対応すること
 ④資本政策面では安定した経営権を確保することだと思います。
 「そんな事は当然わかっているよ」との反論は予想されますが、「当たり前のことを当たり前に実行する」ことこそが優良企業に共通する特質なので、株式上場を目指す場合には、こうしたポイントを良く検討することをお勧めいたします。

2018/10/12 発行 IPOかわら版【第38号】掲載

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