執筆者:吉岡亮治氏(悠和会計事務所代表 公認会計士・税理士)
※所属・肩書は掲載当時のものです。
1. ファンド出資の特性
ファンドからの出資はそれを受ける会社にとってどのような性質なのか、原則的な扱いについて借入(融資)と比較してみます。
① リターン:借入の場合、会社の運用結果に関わらず一定率の利息を支払います。一方、ファンドの場合は儲からなければリターン(配当)はゼロですが、利益が出ればその分だけ多くの収益を分配します。
② 返還義務:借入の場合、運用が失敗しても会社には貸手へ返済する義務が残り続けます。これに対し、ファンド出資であれば、運用が失敗すれば残された財産の範囲で償還すればよいことになります。
③ 資金を受けるための判断基準:金融機関が融資を行う際、会社の現時点の財務状況・財産基盤が重要なポイントになります。ファンドの場合は、将来の収益性が投資の判断材料となる場合が多いです。
2.投資事業有限責任組合が用いられる理由
ファンドにはいくつか種類がありますが、多くのベンチャーファンドでは投資事業有限責任組合(LPS)が活用されています。その理由として、以下の点が挙げられます。
① 信頼性:投資事業有限責任組合は、国内のベンチャー企業に対する投資を促進する目的で、経産省が創設した特別なスキームです。特に上場企業がベンチャー投資をする際には、真っ先に挙げられるほど広く認知されています。また、公認会計士による法定監査が義務付けられており、投資家にとって安心感もあります。
② 有限責任:投資事業有限責任組合に出資した投資家は、原則として有限責任のみ負担します。すなわち、損失は出資額が限度となり、それ以上の責任は負いません。これに対し、任意組合の場合は、投資家は原則として無限責任を負うこととなります。
③ 税制:個人投資家が投資事業有限責任組合を通じてベンチャー投資する場合、投資先企業の株式を売却して得たキャピタルゲインは譲渡所得に区分されます。このとき、税率は約20%の源泉分離課税となります。これに対し、匿名組合であれば分配金は雑所得となり、累進課税として最高税率55%と高所得者には厳しい扱いとなります。
次号では、ファンドに投資する投資家の目的、ファンド出資を受ける前に会社がすべき準備や検討事項、そして、実際にファンドと契約する場合の留意点について解説します。
2019/10/11 発行 IPOかわら版【第42号】掲載