執筆者:金子 竜平氏(インダストリアル・バリュエーション株式会社 ディレクター)
※所属・肩書は掲載当時のものです。
本邦においては、機械設備の帳簿価額が時価として代用され、評価替えが行われるケースでさえも、財務DDの修正帳簿価額や工場財団の評価など、財務や不動産鑑定のような他の専門家が行った金額が用いられることが未だ多いといえます。一方、海外では機械設備を専門とした価値評価人や価値評価に精通したエンジニアが活用されるのが一般的です。近年ではクロスボーダーのM&Aの増加、会計制度の諸外国との調和といった潮流の中で、製造業の上場企業等においては、①M&Aにおける現物出資や時価純資産法による株価評価、②固定資産の減損会計、③企業結合会計、④担保価値評価などの局面で機械設備の専門家による価値評価が活用されはじめており、本邦でも今後は当該専門家による価値評価がスタンダードとなることが期待されています。
2.機械設備の時価評価で用いられる手法と留意点
機械設備の時価評価で最も用いられる手法として原価法があります。当該手法では、対象設備と同能力換算の最新設備の新品価格をスタートとして、対象設備の物理的要因による減価(大規模修繕の履歴や計画を考慮した実年齢および耐用年数から推定)や機能的要因による減価(技術革新による優位性のある最新設備と比較した場合の製造原価の超過分や工程間能力の不均衡によるロス分から推定)、経済的な要因による減価(操業度低下や利益率低下によるロス分から推定)といった各減額要素を控除して測定します。当該手法のポイントは最新設備と比した場合の対象設備の相対的なロスを把握し、評価に反映することです。その他の手法として、取引事例比較法、収益還元法があります。取引事例比較法は対象設備と同一もしくは類似設備の取引価格を使って、対象設備との年齢、仕様、付帯設備の有無などの差異を考慮し、価格補正を行った上で推定する手法です。当該手法のポイントは事例の設備と対象設備との差異を把握し、適切な補正を行うことです。一方、収益還元法は、対象設備の属する事業の将来キャッシュフローから推定される事業価値から他資産(正味運転資本、無形資産など)の時価を控除して推定しますので、事業計画の妥当性や割引率の妥当性、無形資産の有無がポイントとなります。機械設備の時価は、これら3つの手法を検討して、使用するデータの信頼性や評価目的を考慮して、望ましい手法を適用し、もしくは併用して結論づけます。
2015/10/9 発行 IPOかわら版【第26号】掲載