会社法改正と社外取締役設置の実質義務化について

執筆者:古島守氏(奧野総合法律事務所・外国法共同事業 弁護士・公認会計士)

※所属・肩書は掲載当時のものです。

平成26年6月、会社法の一部を改正する法律(以下「改正会社法」)が成立しました。社外取締役の設置を義務付ける規定は見送られましたが、以下のとおり、実質的にこれを義務付けるに等しい改正がなされました。我が国の企業統治の在り方に大きなインパクトを与えるため、実務上の対応も含めて概観することにします。
1.改正会社法の概要
「事業年度の末日において、『公開会社・大会社・監査役会設置会社・株式関連有価証券報告書提出会社』のすべてに該当する株式会社が社外取締役を設置していない場合定時株主総会において、『社外取締役を置くことが相当でない理由』を説明しなければならない(改正会社法三二七条の二)」つまり、株主からの質問や議案に関係なく、定時総会において報告事項として説明義務が課されました。
2.社外取締役設置の実質義務付けと評される理由
特に注意を要するのは、説明義務が課される内容が「社外取締役を置かない理由」ではなく「社外取締役を置くことが相当でない理由」であるという点です。そこでは、単に「社外取締役を置かなくてもガバナンス上不都合はない」とか「適任者が見つからない」といった消極的な事情を挙げるだけでは足らず、会社の置かれた現時点での個別事情に照らせば社外取締役を設置して業務執行の決定に参画させることが企業価値をむしろ毀損するおそれがある等の積極的な事情まで説明が求められていると考えられます。しかしながら、このような理由を合理的に説明するのは難しいため、社外取締役設置が事実上義務付けされたと評されています。
3.説明が不十分な場合、株主総会決議取消事由につながる可能性
更に、今後、会社法施行規則改正により、株主総会参考書類において社外取締役を置くことが相当でない理由の説明義務の規律が設けられる予定です。この場合、株主総会参考書類における説明が不十分であると、株主から事後的に取締役選任議案にかかる決議取消訴訟が提起される可能性も考えられます。
4.実務上の対応
仮に改正会社法が平成27年4月1日施行となった場合(3月決算会社を想定すれば、3月末時点で社外取締役が存在しない限り)、平成27年6月の定時株主総会で「社外取締役を置くことが相当でない理由」の説明義務を負うことになるので、これを回避するには、平成27年3月31日(事業年度末日)までに臨時総会を開催して社外取締役を選任しておく必要があります。
改正会社法成立を契機に、上場会社はもとより上場予備軍においても社外取締役設置を積極的に検討する企業が増加する傾向にあり、今後、社外取締役の需要増から人手不足の事態が想定されます。東京証券取引所上場規則改正(独立役員である社外取締役の設置を努力義務化。平成26年2月より施行)と相俟って、この傾向に一層拍車がかかることは避けられず、いかに迅速に適切な候補者を確保できるか経営者としての手腕が問われます。

2014/10/10 発行 IPOかわら版【第22号】掲載

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