第3回 収益の計上

みなさん、こんにちは。
今回から、個別論点について触れていきたいと思います。
まずは、収益の計上基準についてです。
やっぱり、売上関連は会計における基本中の基本ですから(会計監査の観点でも)。
まず、日本の収益(というか売上)計上基準といえば、実現主義ですよね。実現主義は、一般的に、企業外部の第3者に対して財貨又は役務を提供し、その対価として現金又は現金同等物を受領した時に収益を認識する基準と定義されています。いわゆる発生主義に、客観性(測定にあたって恣意性が介入しない)と確実性(後で取り消されることはない)が付与された認識基準と、遠い昔にどこかの資格受験予備校で習った記憶があります。ただ、一般的には、日本基準ではこの「実現主義」の定めはあるけど、具体的な要件などを定めた包括的な収益計上基準の規定はないと言われています。実現主義の定義自体も現状の会計基準上では明確になってないですし。
これに対して、国際会計基準ではIAS18号-Revenueにおいて、以下の3つの取引に分けて、それぞれ詳細にかつ具体的に収益計上基準を規定しています。
①物品の販売(Sale of Goods)
②役務の提供(Rendering of Services)
③利息・ロイヤリティー・配当(Interest, Royalties and Dividends)
①物品の販売に関する収益の認識について
以下の5要件が全て満たされた場合に収益を認識します。
・物品の所有に伴う重要なリスクおよび経済価値を企業が買い手に移転させたこと
・販売された物品に対して、所有と通常結びつけられる程度の継続的な管理上の関与も有効な支配も企業が保持していないこと
・収益の額が信頼性をもって測定できること
・当該取引に関連する経済的便益が企業に流入する可能性が高いこと
・当該取引に関して発生した又は発生する原価が、信頼性をもって測定できること
なんだか日本の金融商品会計でいう金融資産・負債の消滅に近いイメージの要件です。特に、ひとつ目のリスクおよび経済価値の移転のあたりが、そんな感じです。IAS上では、リスクおよび経済価値の移転に関しては、法律上の所有権や占有の移転とは異なるタイミングで、実質的なリスクや経済価値が移転する場合があるので、会計上の留意が必要であるとされています。
例えば、
・企業が、契約上の義務を留保している場合
・販売物品の据付けが、契約の重要な部分を占めている場合
・委託販売、使用販売の場合
などです。
また、日本の金融商品会計だと、リスク・経済価値アプローチではなく財務構成要素アプローチが採用されているので、その点でもIASと日本基準の考え方の相違があるということができると思います。
上記の観点を踏まえると、日本の売上認識基準で多くの企業が適用している出荷基準は、顧客との契約内容等によっては必ずしもIAS上の収益の認識要件を満たしていない(リスクと経済価値が買い手に移転していない)場合もあり得ると思われるため、留意が必要です。例えば、買い手が販売契約において購入を取り消す権利を有し、売り手にとって返品の可能性が不確実である場合は、売り手にリスクが移転していないと考えられるため、出荷基準による収益認識は認められない可能性があります。ただし、小売業などでは、信頼性をもって将来の返品を見積もることが可能であれば、その負債認識を条件として出荷基準でも収益認識をすることができるようです。
②役務の提供に関する収益の認識について
以下の4要件が全て満たされた場合に収益を認識します。
・収益の額が信頼性をもって測定できること
・当該取引に関する経済的便益が企業に流入する可能性が高いこと
・当該取引の進捗度が貸借対照表日に信頼性をもって測定できること
・当該取引について発生した原価および取引の完了に要する原価が信頼性をもって測定できること
基本的に、いわゆる進行基準が適用されます。但し、役務提供の成果を信頼性をもって見積もれない場合には、収益は費用が回収可能と認められる範囲内でしか認識できません。
役務提供について、日本基準では物品の販売と同様に販売基準が原則とされています。但し、もともと長期請負工事は工事進行基準の適用も容認されていますし、継続的役務提供については経過勘定を使用した期間按分処理が原則的な会計処理となっているので、その点では一定の整合性は保てていると思われます。
この辺については、日本においても「工事契約に関する会計基準」により進行基準が原則となったので、IASと日本基準との差は相応に解消されている感じです。特に、受注制作のソフトウェアについても、この会計基準が適用されることになった点はポイントのひとつでしょう。
但し、工事進行基準の要件を満たさない場合(例えば、信頼できる実行予算が策定できない場合等)においては、IASでは上記に記載のとおり、収益は費用が回収可能と認められる範囲内でしか認識できないのに対し、日本基準では従来の工事完成基準が適用される点が異なってきます。
③利息・ロイヤルティ・配当に関する収益の認識について
以下の2要件が全て満たされた場合に収益を認識します。
・その取引に関連する経済的便益が企業に流入する可能性が高いこと
・収益の額を信頼性をもって測定できること
利息・配当については、日本でも金融商品会計基準が規定されているので、実務上では特に基本的な相違はないようです。ロイヤルティに関する明示規定はまだ日本にはありませんが、日本でも実務上では発生主義に基づいて収益認識をしていると思われるので、その意味では相違はあまりないものと思われます。
今回はこんな感じでしょうか。
(ちょっと、予定より長くなってしまいましたが・・)
話しが総論的になってしまいましたが、いずれにしても、実際は会社ごとの実情等を勘案して具体的な収益認識基準(特に物品の販売については)が決定されることになると思われます。その点では、日本基準でも同じなんですが。
それでは、また来月。

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