第11回 包括利益計算書

みなさん、こんにちは。
毎日、手洗い・うがいを欠かさない寺田です。

今回は、包括利益計算書について触れたいと思います。

まず、日本基準の最近の動向から。
日本の企業会計基準委員会において、平成21年10月29日に、日本における開示項目として包括利益を導入することを暫定合意しました。
具体的な暫定合意項目は以下の3つです。
・包括利益の表示を導入する。
・連結財務諸表だけでなく個別財務諸表にも適用する。
・「1計算書方式」と「2計算書方式」の選択を認める。

これをうけて、年内に公開草案を公表し、2011年3月期からの導入を予定しているようです。
実際は、もう1年くらいは延期されるかも知れませんが・・・

現状、IFRSにおいては、俗にいう損益計算書ではなく包括利益計算書の開示が義務づけられています。これに伴い、日本においても、会計基準のコンバージョンの一貫として包括利益を開示する方向に向かっている状況です。将来において、IFRSを適用(アドプション)するか否かを問わず、財務諸表の国際的な比較可能性を担保するために、このような改訂を先行適用しているということです。

それでは、「包括利益」って何?ということになるのですが、
IFRSにおいて包括利益とは、「ある期間中に取引その他の事象によって生じた資本の変動(所有者としての立場での所有者との取引による変動を除く)」と定義され、「当期純利益」と「その他の包括利益」のすべての構成要素から構成されると説明されています。
現状の日本基準に即していうと、

「当期純利益」・・・現状の損益計算書の当期純利益と同義
「その他の包括利益」・・・現状の株主資本等変動計算書の当期増減項目(資本取引以外)
という理解で差支えないと思います。
「その他の包括利益」の具体例としては、有価証券評価差額、為替調整勘定や繰延ヘッジ損益の当期増減額などが挙げられます。

IFRSで、「損益計算書」ではなく「包括利益計算書」が適用されているのは、財務諸表におけるB/S重視の考え方に起因しています。以前のコラムでも触れましたが、日本では、適正な期間損益計算をまず実施し、その結果としての利益がB/S上の剰余金に蓄積されていくという考え方を採用していました。これに対して、B/S重視のIFRSでは、B/Sを適正な公正価値で評価し、その増減額が結果的に「包括利益計算書」に反映されるという考え方を採用しています。
包括利益計算書のイメージは以下のとおりです。
≪包括利益計算書のイメージ≫

売上高           5,000
・・・
・・・
当期純利益         1,000
その他の包括利益
その他有価証券評価差額金    200
繰延ヘッジ損益          50
為替換算調整勘定       ▲150
包括利益          1,100

ちなみに、先ほど触れた「1計算書方式」と「2計算書方式」とは、
「1計算書方式」: 売上高から包括利益までの算出過程を1つの計算書で開示する方法
「2計算書方式」: 損益計算書において売上高から当期純利益までの算出過程を開示し、別途作成した包括利益計算書において当期純利益から包括利益までの算出過程を開示する方法です。
要するに、結局のところ開示する項目は同様ですが、まとめて開示するのか、分けて開示するのかの形式的な違いのみです。
上記のイメージは「1計算書方式」です。

現状のIFRSでは、今回の日本での暫定合意と同様に「1計算書方式」と「2計算書方式」の選択を認めていますが、2012年頃には「1計算書方式」のみの適用に改正されることが予想されています。従って、日本が将来にIFRSを適用することになった場合は、「1計算書方式」のみの運用ということになりそうです。

ということで、来期に日本においても包括利益という概念が適用されたとしても、会計実務上はそんなに特段の影響はないようにも思えます。単純にちょっと違和感があるとか、表示組み替え作業にひと手間必要とか、その程度でしょう。(というと怒られそうですが・・・)
その理由として、今回の暫定合意において、包括利益の表示を導入する前提条件のひとつに「リサイクリングの維持」が挙げられていることがあります。

「リサイクリングの維持」があるからこそ、包括利益という概念が適用されても、現行の会計実務にはさほど大きな影響はないと言えると思います。

「リサイクリング」とは、過年度に計上されたその他の包括利益のうち期中に実現した部分等をその他の包括利益から当期純利益に振り替えることをいいます。
例えば、その他有価証券を売却した際に、過去にその他有価証券評価差額金として計上されていた金額を売却損益として当期純利益に含める処理などがあります。

つまり、「リサイクリングの維持」の下では、その他有価証券に係る保有時の評価損益は「その他の包括利益」として計上されますが、売却時における売却損益は改めて「当期純利益」に計上することになります。当期純利益の観点からは、いわゆる有価証券の益出しが可能ということになります(これは、現時点での日本基準の損益計算書の場合と同様です)。
しかし、リサイクリングを維持しないとなると、過年度において「その他の包括利益」に計上された評価損益については、それをもって包括利益計算書にはもう反映されたことになるので、その後にいわゆる有価証券の売却益が生じた場合でも、当期純利益には計上されないことになります。

現時点でのIFRSでは、「リサイクリングの維持」が図られていますが、将来的には撤廃する方向で議論されているようです。少なくとも、会計理論上は「リサイクリングの維持」は妥当ではないが、実務上のインパクトを考えると・・といった状況のようです。
あと、その他有価証券の売却損益以外で影響の大きそうな論点だと、退職給付会計の数理計算上の差異償却あたりかな、と思います。

前回のコラムで、日本の新聞・雑誌等の記事で、持ち合い株式の売却益や受取配当金が純利益に計上できなくなる旨の内容が記載されていることについて触れましたが、それはこのリサイクリングの議論に伴うものです。但し、先月のIASBの会議において、日本の実情を鑑みて受取配当金については例外的に当期純利益への計上が容認される方向のようです。
その辺は、原則主義を掲げつつ、多少は空気も読んでくれるようですね!?

という訳で、今月はそんな感じで・・

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