年始の休みに、自宅の本棚にあったアル・ゴア著の「不都合な真実」を手に取った。
なぜこの本かというと、南アフリカのターバンで行われたCOP17(気候変動枠組会議)が閉会した直後であったこと、それと、疲れきっていて活字を読めそうもなかったからである。(この本の大部分は写真で構成されている)
アル・ゴアは、言うまでもなく、クリントン政権時代の副大統領であるが、環境問題の論客として知られ、ノーベル平和賞も受賞している。
副大統領在任中に日本で行われたCOP3に参加したアル・ゴアは、温室効果ガス削減のためには、産業革命以降過去に多くの温室効果ガスを排出してきた先進国が率先して削減努力をすべきという、京都議定書締結の立役者であった。その後、アル・ゴアは次期大統領選に出馬し、ブッシュに敗れている。
アル・ゴアが、何が「不都合」と言っているかというと、温室効果ガスを多く排出する石油業界と太いパイプを持つブッシュ政権が、京都議定書から離脱したという、ブッシュ政権にとっての「不都合」、そして、地球温暖化が急速に進むことによる人類にとっての「不都合」である。
COP17の論点は「ポスト京都議定書」であり、各国の思惑がぶつかり合った。京都議定書は温室効果ガス(二酸化炭素など)の各国の削減目標(基準年である1990年に対する2008年から2012年の間の削減目標)を定めており、例えば、日本は6%、EU各国は8%である。
各国の思惑は、・・・
EU各国の思惑:
「自分たちにとっては、京都議定書の削減目標を達成することは、そんなに難しくない。なぜなら、基準年である1990年はベルリンの壁崩壊直後であり、東側諸国には削減余地がたくさんあった。ましてや、EU全体で目標を達成すればいい。アメリカが参加していないこの枠組みを維持することにより、グリーン・ビジネスの主導権はEUが握れる。」
中国の思惑:
「京都議定書の延長を望む。京都議定書では、自分たちは開発国と位置付けられており、削減義務はない。自分たちが発展途上国とは甚だおかしいが、環境問題の中だけの話なら大いに結構。但し、人口13億人の我が国にとっては、環境問題という視点より、エネルギー・資源の問題として向き合わねばならない。」
日本の思惑:
「削減目標6%の達成なんて不可能だ。基準年である1990年は、エネルギー効率の観点から十分に努力しきった後の年で、削減のための余力はない。温室効果ガスを削減しなければならないのはわかるが、アメリカが参加していない枠組みの中で、自分たちの進む方向性をはっきりとはできない。」
アメリカの思惑:
「自分たちが参加していない中で、世界の枠組みが決まって行くなんて認められない。ましてや、二酸化炭素排出量ナンバー1、ナンバー2の我が国と中国が削減努力をしない枠組みに、何の意味があるのか。グリーン・ビジネスの主導権をEUに持たせるわけにはいかない。我が国を中心とし、カナダ・オーストラリア・日本を巻き込んで、環太平洋主導の新しい枠組みとせねば。」
結局COP17は、①先進国が温室効果ガス削減義務を負う京都議定書は2013年以降も継続し、②2020年にはアメリカ、中国が参加する新しい枠組みを始めることで、無難に閉幕した。なお、日本は京都議定書の延長に応じていない。
ところで最近、スマートグリッドという言葉が気になる。スマートグリッドは、オバマ政権がグリーン・ニューディール政策の柱として打ち出したものであり、日本語訳は「次世代送電網」である。「電力・インターネット・通信・コンピュータの各種技術を融合」させ、「需要側と供給側を双方向」でやり取りをする電力網を構築することにより、新しい産業を創造しようとするものである。これから創って行こうとする産業なわけであるから、全くイメージがわかない。
先進国各国は、このスマートグリッドの実現により、中長期的に温室効果ガスを20~25%削減させる目標を立てている。
かつて鳩山元首相が、2020年までに1990年比で温室効果ガスを25%削減するという目標を掲げたのも、新しい産業の創出が前提であった。実行が困難と思われるこの発言を無責任と言い、京都議定書の延長に応じなかったことによりこの発言は帳消しになったとの声もある。しかし、将来的には石油は枯渇するかもしれないという資源問題と向き合った場合、政府主導での努力は不可避である。
とは言っても、私たち生活者レベルでは、環境問題はできることから取り組みたい。「チャレンジ25」よりも「チーム・マイナス6%」だと思う。
佐藤 禎
<プロフィール>
昭和40年10月22日生
早稲田大学商学部卒業
<モットー・信条>
Rome was not built in a day.(少し前、塩野七生さんの本にはまっていました。)