あるクライアントを毎月1回訪問して、当該会社の経営状況を説明し、社長とその後継者との間で2時間くらい、今後の経営課題などについて協議する機会を作っています。
日本や世界の経済環境、政治環境の認識、その環境下で日本に不足していることは何か、政治談議などの雑談的な会話をしてから本題に移ります。
様々な話が終わって会社を出る時に、その日後ろから、「日本を背負って立つようなことは考えないほうがいいですよ」と、そのご子息から声がかかりました。
いつもであれば「ご苦労様でした。」「ありがとうございました。」程度の言葉をもらい退出するのですが、その時ばかりは、はっと我に返る思いでした。
なるほど私の話は、聞く人からすればそんなふうに映るのでしょうか。そう言われてみれば、確かに日々自分の周囲に起こる事象の解決も十分できないにもかかわらず、天下国家を論じても具体的な成果が得られる訳でもなく、ただ空論に終わっているのが現実です。
“日本を背負って立つようなことを考えない”思考パターンを私の習慣にしてしまえば、肩の力が抜けて、ゆったりとして、精神的にも安定した身の回りになると思いますが、そう言われ、そう願っても、長年身についたものを変えることはできません。かなり昔に、西川やすし、きよしの漫才の中で、「もっといい加減に生きたいな」という掛け合いを聞いた時もそう思ったものです。
この話をテレビ局の番組企画などの仕事をしているある会社の社長にしたところ、これが現在の日本の若い世代の価値観だそうです。私は誰が誰だか全くわかりませんが、おにゃんこクラブ、モーニング娘、AKBというそれぞれの時代の人気グループの歌詞から分析すると、今の若い世代の価値観は、“自分と直接接する対象が最も重要な存在となっている”とのことです。
将来を見据えての日本、会社、業界、人材、顧客・市場、技術力をどうするのか等の議論よりも、現在の給料アップ、労働時間の短縮、余暇や趣味に割く時間の確保などの議論が重要で、少しでも早くそれを手に入れる方法を考える人が増え続けているのかも知れません。後者の範疇に属する課題についても、要求はするがそれを自ら実現する手順を考えて実行に移す気力と行動力はあるのでしょうか。後者を満たすためには前者の環境確保が不可欠だという認識を皆で共有できるでしょうか。
イカン、イカン。またまた肩に力が入ってきてしまいました。このあたりで止めておかないと、出来もしないのにまた日本を背負ってしまいます。それではまた。
野田勇司
岐阜県出身、昭和25年4月12日生、
気儘に過ごす時間がなく、“仕事に遊べ”と慰めています。