第33回 アジェンダ協議に対する日本の意見

みなさん、こんにちは。 何だかんだで今年の夏も暑くて辛かったですが(極度の汗っかきなもので・・・)、そろそろ涼しくなってきているような気がしている寺田です。 今回は、アジェンダ協議に対する日本の意見について取り上げたいと思います。 これ自体は昨年末のトピックなのですが、前回のコラムで取り上げた中間的論点整理の議論のなかで、それなりに重要な位置づけとして取り上げられていたこともあり、この機会に概要について簡単に触れたいと思います。 そもそも「アジェンダ協議って何??」という事なのですが、これはIASBが全世界各国に対して、今後のIASBの活動や会計基準の改訂等について、お伺いをたてているものです。 これに対する世界各国からの意見・要望を踏まえて、IASBは今後の活動内容について決めることになります。 このようなやり取りは実質的には今回が初めてで、今後は3年サイクルでこのようなプロセスを経ていく予定のようです。今回のアジェンダ協議は、正確には「アジェンダ協議2011」と年号が付されています。 このアジェンダ協議に対して、日本においてもIASBにコメントを提出しています。 日本としてのコメントはASBJとFASFの連名で提出された形式になっていますが、その内容は、国内の様々な利害関係者の議論・意見等を集約したものとなっています。 その中では、個別の会計処理について触れられており、大変興味深い内容となっています。今後の日本基準の動向やIFRS適用を行う際の影響・留意点を考えるにあたっては、かなり重要な論点であると思われます。 具体的には、以下の6項目です。 1.OCIとリサイクリング 2.公正価値の適用範囲 3.開発費の資産計上 4.のれんの非償却 5.固定資産の減損の戻入れ 6.機能通貨 1.OCIとリサイクリング 簡単におさらいをすると、OCIとは、日本でいう「その他包括利益(Other Comprehensive Income)」です。現在の日本においては、上場会社の連結財務諸表では、その開示が求められています。 ある期にOCIを計上した後に損益が実際に実現した場合に、当該実現損益を当該期の当期純利益として計上する場合がリサイクリング「する」、実現した場合でも特に当期純利益に計上しない場合がリサイクリング「しない」ということになります。 詳細は、第11回「包括利益計算書」をご参照下さい。(といっても、それほど詳細でもなかったりしますが・・・) 現時点でのIFRSにおけるリサイクリングの取扱いについては、各基準の個別規定毎にリサイクリング「する」場合と「しない」場合の規定が設けられています。その結果として、基準によってリサイクリング「する」場合と「しない」場合が混在しており、IFRS全体としての整合性に欠けるというのが日本の意見です。そのためには、概念フレームワークにおいて当期純利益の考え方に関して明示的に定義づける必要があるのではないか、という旨のコメントも述べています。 確かに言われて見れば、全くその通りの話しです。ただ、IASBは、理論上では基本的にリサイクリングは「しない」というスタンスではあります。その一方で、リサイクリングしないことに対する実務界等からの反論も踏まえて、実務的な対応をした結果、全体的な整合を欠いた結果になってしまった面もあると思われます。個人的な印象としては、特に損益のインパクトが大きそうな基準では、リサイクリング「する」ことになっている感じです。 将来的には、このような不整合については、概念フレームワーク及び基準の改訂作業を行うことにならざるを得ないように思います。 2.公正価値の適用範囲 今回コメントされている公正価値に関する論点は、大きく以下の4つです。 (a) 固定資産の再評価モデル (b) 投資不動産の公正価値モデル (c) 農業の公正価値測定 (d) 非上場株式の公正価値測定 (a)と(b)については、現状のIFRSでは原価モデルとの選択適用が認められているのですが、どちらのモデルを採用するかは企業側の任意で選択出来るようになっています。そのような状況では、財務諸表の企業間比較可能性が損なわれるため、両モデルを選択適用する際の要件を明確にすべきではないかという旨のコメントを述べています。 個人的には非常にもっともな意見のように思いますが、比較的「規則主義」的な意見のようにも思われます。 (c)については、現状のIFRSでは、関連する農業資産は全て公正価値で評価する必要がありますが、一部の資産については原価モデルの採用を認めた方が良いのではないかという意見です。 端的に言えば、果樹園の樹木のような資産は、牧場の牛のような資産と違って、工場における製造設備のような資産性があるため、原価モデルを採用した方が妥当なのではないかという意見です。(果樹園の樹木は有形固定資産で、牧場の牛は棚卸資産に近いイメージです。) (d)については、上記(a)~(c)のような評価モデルの選択の話しではなく、実務の実行可能性の観点の意見です。現状のIFRSでは、非上場株式であっても原則として公正価値測定が求められます。確かに、理論上はそうすべきかも知れませんが、実際に評価を行なうのは非常に煩雑かつ困難な作業になることが想定されます。 また、仮に何らかの公正価値評価を行なったとしても、その測定値の信頼性がどこまで担保できるかが疑問な面もあります。そのような問題点について、慎重な意見を述べています。 3.開発費の資産計上 開発費については、日本基準では原則費用処理ですが、IFRSでは一定の要件を満たしたものは資産計上「しなければならない」規定となっています。 しかし、現状でのIFRS開示事例をみるとその運用はマチマチであり、厳密に資産計上している企業もあれば、保守的に費用処理をしている企業もあるのが実態です。また、無形資産を取り巻く市場環境や製品のライフルサイクル等も、近年大きく変化しているようにも見受けられます。 そのような状況を踏まえて、開発費の資産計上の妥当性について再検討すべきではないかという旨のコメントを述べています。 4.のれんの非償却、5.固定資産の減損の戻入れ、6.機能通貨 上記4.~6.については、IFRSと日本基準の差異についてです。この差異について、IFRSの会計処理の再検討を求めているものです。 これまでの日本基準における考え方では、のれんは規則的に償却し、固定資産の減損は切りっぱなしであった方が、適正な期間損益計算の観点から馴染みやすいのは事実です。 また、機能通貨の概念もこれまでの日本基準にはなかったもので、実務上の妥当性や煩雑さの観点からは、懐疑的な意見を述べています。 しかし、上記4.~6.については、上記1.~3.
と比べて、IFRSの基準改訂へとつながる可能性は相応に低く、とりあえずの日本の意見を述べるというニュアンスが強いように思います。 アジェンダ協議に対する日本の意見に対してのポイントは、以上のとおりになります。(解釈的なところは、大分私見が入ってしまいましたが・・・) 上記論点については、今後のIFRSの基準改訂に対してどのように反映されるかは、要注目です。また、IFRSへのコンバージェンスの名のもとに今後も日本基準の改訂・新設が予定されていますが、そこでもどのように反映されるかについては、併せて要注目だと思います。 ということで、今回はこの辺で。。。

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