第27回 外国為替レート変動の影響

みなさん、こんにちは。
3月決算の繁忙期も一段落してきた寺田です。
今年は花粉症が厳しいと聞いていて、ここ数年で花粉症っぽい感じになりつつあった僕としては、戦々恐々としていたのですが、いつの間にか乗り切っていたようで、ちょっとホッとしていたりします。震災関連でバタバタとしていたら、いつの間にか花粉症の季節が終わっていたみたいです。。。
という訳で(!?)、今回のテーマは、「為替換算」を取り上げたいと思います。
「為替換算」に関しては、IAS第21号の「外国為替レート変動の影響 (The Effects of Changes in Foreign Exchange Rates)」において、具体的に規定されています。日本では、「外貨建取引等会計処理基準」や「外貨建取引等の会計処理に関する実務指針」が、それに相当します。
単純に言ってしまえば、外貨建取引を円換算するだけの話しなので、本質的に両者の間に重要な差異はありません。
とは言え、主に以下の5点については、留意が必要であると思われます。
1.機能通貨(functional currency)
2.取引日レート(P/L項目)
3.期末の換算レート(B/S項目)
4.海外子会社のP/Lの換算
5.振当処理
1.機能通貨
IAS第21号では、機能通貨は、『企業が営業活動を行う主たる経済環境の通貨』と定義されています。これに対して、日本基準においては、機能通貨の適用について明示的な規定はありません(機能通貨の使用に類似する容認規定はあります)。
現在の日本における会計実務では、基本的に、海外子会社が所属する国の現地通貨ベースで財務諸表を作成し、当該財務諸表を基礎として連結財務諸表を作成しているケースが多いと思います。しかし、今後は、海外子会社の財務諸表を機能通貨ベースで作成する必要があります。従って、海外子会社の機能通貨が、現地通貨と異なる場合には、これまでの連結決算プロセスを変更する必要があるかも知れません。
具体的には、売上や仕入取引が現地通貨建てではなく、専ら「別の通貨」(例えば、USドルやユーロ)建てで行われている場合には、当該「別の通貨」が機能通貨と見なされることになります。一般的には、現地通貨=機能通貨である、ということが出来るケースが多いと思いますが、IFRS導入にあたっては、現地通貨と機能通貨が異なる事業体の有無については留意が必要です。
2.取引日レート(P/L項目)
親会社及び国内子会社は、期中に発生した外貨建て取引を円換算する必要があります。このような期中取引の換算に際しては、「取引日の為替レート」と「平均レート」の考え方が重要になってきます。
日本基準においては、「取引日の為替レート」と「平均レート」は並列的な取扱いとなっています。実務上は、「取引日の為替レート」の換算処理は極めて煩雑なので、一定の簡便的な「平均レート」を用いているケースが多いと思われます。
それに対して、IFRSにおいては、「取引日の為替レート」を用いるのが大原則です。但し、例外的に「取引の為替レート」に近似するレートの使用を容認しており、その例示として「平均レート」が挙げられています。
つまり、実務上は、日本基準においてもIFRS適用下においても、一定期間の「平均レート」に基づいて期中取引の換算を行うことが出来る点では大きな相違はありません。但し、既に述べたそもそもの「平均レート」の位置づけが違うことと、以下の2点については留意が必要です。
(1)IAS第21号では、「為替レートが著しく変動している場合」には、平均レートの使用ができない旨の規定があります。それに対して、日本基準にはそのような規定はありません。
(2)平均レートを算定する期間について、日本基準では取引日の前月又は前週の平均レートを使用することが出来る旨が明文化されている。
(1)については、「為替レートが著しく変動している場合」を具体的にどのように考えるかがポイントになります。これまでの日本基準において、当然の正しい換算レートとして「平均レート」を使用していたとしても、取引日レートを原則としているIFRSにおいては、その「平均レート」が、あるべき「取引日レート」から大きく乖離していないことが、「平均レート」の適用要件として定められています。
(2)は、基準上の文章の読み方の観点です。IAS第21号では、「例えば、1週間又は1ヶ月の平均レートが、当該期間に発生したそれぞれの外貨建ての全ての取引に用いられることもよくある。」という記述があります。この記述が直接的に意味していることは、平均レートの平均期間には、換算する取引の取引日が含まれているということです。すなわち、取引日が属する月・週の平均レートの使用は認められますが、その前月の平均レートを用いることの妥当性についての記述はありません。したがって、その点については、企業実態やIFRS基準の趣旨を総合的に勘案して、慎重に検討する必要がある場合があるかも知れません。
3.期末の換算レート(B/S項目)
親会社及び国内子会社の期中取引の換算については、2.に記載のとおりですが、期末決算において、貸借対照表に係る外貨建項目をさらに換算替えする必要があります。その際に適用する換算レートは、日本基準においてもIFRSにおいても、決算日の為替レートが原則となります。(一部の取引日レート等で換算される項目を除く)
但し、期末決算時の換算レートについても、「平均レート」の取扱いが重要になってきます。日本基準においては、決算日レートが異常と認められる場合は、決算日の前後一定期間の平均レートを用いることが出来ます。しかし、IAS第21号には、そのような例外的な規定はありません。
4.海外子会社のPLの換算
上記2.と3.は、親会社(及び国内子会社)の換算についての論点でした。今度は、連結財務諸表を作成する際にベースとなる海外子会社の財務諸表の換算についてです。
貸借対照表に関しては、日本基準でもIFRSでも決算日レート(一部の取引日レート等で換算される項目を除く)を用いて換算される点で全く同じです。しかし、損益計算書の換算レートの取扱いが異なりますのでご留意下さい。
日本では、原則として期中平均レート(親会社との取引は親会社使用レート)を用いることとされており、さらに間便法で決算日レートでの換算も容認されています。
それに対してIAS第21号では、原則として取引日レートを用いることとされ、為替レートが著しく変動している場合に期中平均レートを用いることが容認されています。すなわち、上期3.と全く同じ規定となっています。
5.振当処理
振当処理とは、外貨建取引に対して為替予約を行った場合に、取引日レートと予約レートの差額を決済等までの期間に按分して損益をして計上する会計手法です。
このような会計処理は、IAS第21号では規定されていません。従って、これまで振当処理を行っていた為替予約等に対しては、IFRSでは単なるヘッジ会計の手法が適用されることになると考えられます。つまり、単純なレート差額を期間按分するのではなく、毎期時価評価を行った上で繰延ヘッジ損益を計上する会計処理が必要となってきます。
今回のテーマには直接該当はしませんが、同じようなことが金利スワップの特例処理についても言えます。
「為替換算」に関するポイントは、このような感じです。これといった大きな論点はありませんが、少し文章が長くなってしまいました。。。
大きな論点がないというのは、IFRSの基準を理解する上では特に悩ましいところが無いと言うことです。むしろ、理論上では、IFRSの規定の方が日本基準よりも正しい(!?)、と言えるかも知れません。日本基準は、初めから実務における便宜を多く加味している傾向にあると思います。
つまり、IFRSの基準自体は悩ましいところは特にありませんが、実務上の取扱いとして具体的に展開していく場合には難しい側面もあります。特に、損益計算書に係る換算レートの決定(期中取引や海外子会社のPL換算)については、今までの方法が無条件にIFRSでも認められるか否か、については十分かつ慎重に検討する必要があると思われます。昨今の経済環境を踏まえると、この基準の適用対象となるような外貨建取引は益々増加することが想定されるので、その意味でも重要な基準であると言うことが出来ると思います。
という訳で、今回はこの辺で。。。

東京事務所アクセス IPOかわら版 通年採用情報 嘱託採用情報
ページ上部へ戻る