第22回 IFRS第9号(金融資産の分類と測定)

みなさん、こんにちは
早くも年末モード(!?)に入りつつある寺田です。
今回は、IFRS第9号について触れたいと思います。
金融商品会計に関しての話になりますが、実は、このコラムの第10回「金融商品の認識と測定」でも金融商品については触れていたりします。以前の時には、 IAS第39号を基本としつつも、IFRS第9号について簡単な解説(や今後の方向性)について書かせて頂きましたが、今回改めて解説したいと思います。(前回のおさらい込みで・・)
IFRSにおいて、金融商品関連はIAS第39号「金融商品:認識と測定」(Financial Instruments : Recognition and Measurement)にて、全般的な規定がなされています。なお、開示関連は、IFRS第7号「金融商品:開示」にて別途規定がなされています。
そして、現在では、IASBとFASB(米国)との共同プロジェクトの一環で、このIAS第39号の全面見直しが実施されている最中です。
見直し作業については、大きく以下の4つの項目に分けて、随時作業を実施しています。
1. 金融資産の分類及び測定
2. 金融負債の分類及び測定
3. 減損の方法
4. ヘッジ会計
それで、上記1.については、2009年11月にIFRS第9号「金融商品」(Financial Instruments)を公表しています。(正式には、「Part1:Classification and measurement(分類及び測定)」です。)
その後、上記2.~4.については、遅くとも来年(2011年)中までに基準の公表をする予定です。
金融商品関連の基準は、そもそも複雑かつ難解な規定になりがちな(実際、これまでの基準はそうであったと言われています。)なかで、今回の見直しでは「基準の簡素化」を主テーマとして考えているようです。加えて、世界中で起きている昨今の会計的なスキャンダル(端的に言うと、粉飾決算)の多くは、ここに関連していることもあり、より慎重な議論がなされているようです。その結果、基準公表のスケジュールが、のびのびとなっているのが現状です。
少し前置きが長くなりましたが、IFRS第9号の内容について解説していきます。
テーマは、上記1.の「金融資産の分類及び測定」です。
今回は以下の3つのポイントに絞って、解説したいと思います。
この3つのポイントが、IFRS第9号の骨子となります。
① 金融商品を「償却原価」区分と「公正価値」区分に分ける
② 「償却原価」区分とされる金融商品には以下の2つの要件がある
 ・ 保有する企業のビジネスモデルに関する要件
 ・ 対象となる金融資産の特徴に関する要件
今回は、この3つについて大まかに理解して頂ければ、と思っています。
基準上は、割と細かい規定やガイダンスが記載されているのですが、上記3つの大まかな概要及びポイントについて説明します。
① 金融商品を「償却原価」区分と「公正価値」区分に分ける
企業が保有する金融資産は全て、「償却原価」区分と「公正価値」区分のどちらかに分類することになります。その結果、測定方法は
「償却原価」区分 :償却原価法を適用(償却原価法の考え方は日本基準と同じです。)
「公正価値」区分 :決算時に時価(公正価値)評価
になります。
金融資産の分類は、「償却原価」区分の要件を満たす金融資産は「償却原価」区分に分類し(当たり前ですね・・)、それ以外のものは全て「公正価値」区分に分類することになります。
分類のイメージとしては、原則は「公正価値」区分ですが、一部の金融資産については例外的に「償却原価」区分が認められている、という感じでしょうか。
② 「償却原価」区分とされる金融商品には以下の2つの要件がある
 ・ 保有する企業のビジネス・モデルに関する要件
 ・ 対象となる金融資産の特徴に関する要件
2つの要件の解説をする前に、総論的な話をすると、ここでのキーワードは「キャッシュ・フロー」です。
「公正価値」評価を免除(!?)され、償却原価法の適用が容認されているということは、金融資産の含み損益が全く実現することがないから、とも言えます。評価損益如何に関わらず、帳簿価額に相当する経済的便益のみが、将来において流入することが確定していれば、わざわざ決算時に時価評価する必要はない訳です。IFRS第9号では、この将来において流入することが確定している経済的便益を「キャッシュ・フロー」と位置付けて、規定しています。
 ・ 保有する企業のビジネス・モデルに関する要件
ここでは、金融資産を管理する企業のビジネス・モデルについて規定しています。具体的には、金融商品の契約上のキャッシュ・フローを回収するために保有するという企業のビジネス・モデルの下で保有されている金融商品は、この要件を満たすことになります。分かりやすく言えば、企業が転売することなく、満期償還まで金融商品を保有するということです。
但し、厳密に言うと、会社の意図(保有目的)ではなく、あくまでビジネス・モデルに係る要件であることに留意が必要です。銀行等の金融機関の貸付金であれば、貸付金回収業務がビジネス・モデルとして認識し易い(本業なので)のですが、一般事業会社においては金融資産投資を「ビジネス・モデル」としてどう捉えるかが、実務上のポイントになりそうです。その際には、実際の運用実態を重視して判断することになります。
 ・ 対象となる金融資産の特徴に関する要件
ここでは、金融資産の契約キャッシュ・フローの特徴について規定しています。具体的には、金融商品の契約条件が、特定の日に、元本及び元本残高に対する金利のみからなるキャッシュ・フローを生み出す場合に、この要件を満たすことになります。
基準では、以下の2つの要件を挙げています
 ・元利金の支払期日が、契約において特定されていること
 ・支払金利が、元本残高に対する貨幣の時間的価値及び信用リスクのみで構成されている。
1つ目の要件は分かりやすいのですが、2つ目の金利に係る要件は実務上のポイントになるのではないでしょうか?
単純な貸出金や国債等の債券であれば特に問題なく要件に合致すると言えますが、デリバティブ取引が絡んでくるような複雑な内容の金融商品の場合は、慎重な検討が必要です。特に、仕組債のような商品は商品全体のキャッシュ・フローの状況を総括的に把握し、判定することが必要です。(基準では「look through」という表現が用いられています。)
私見ですが、基本的には仕組債の多くはこの要件を満たさないのではないか、と考えています。
③ 「公正価値」区分とされた場合は、下記のいずれかの会計処理を選択する
 ・ 評価損益を純損益で計上する方法
 ・ 評価損益を「その他包括利益」で計上する方法
いちおう、
原則: 評価損益を純損益で計上
例外: 評価損益を「その他包括利益」で計上
という体裁ですが、企業において選択適用が可能となっています。
但し、トレーディング目的の場合や、デリバティブ取引の場合は、「評価損益を純損益で計上」する原則的な方法が適用されることになります。
今回コラムでは、イメージを掴んで頂くために「評価損益」という用語を使用してきましたが、正確には「関連損益」です。つまり、評価損益だけではなく、利息や売却損益等も含めた全ての関連損益が、「純損益」か「その他包括利益」のどちらか選択した方法で計上されることになります。その際は、評価損益を「その他包括利益」にして、利息を「純損益」にするというような使い分けは出来ず、一連の関連損益は同一の表示区分になります。
但し、株式の配当金については、例外規定が設けられています。すなわち、例外方法(関連損益を「その他包括利益」に計上)を選択した場合でも、配当金だけ「純損益」に計上することが容認されています。これは、完全に日本でいう「持合株式」について、IASBが便宜を図った規定です。つまり、「持合株式」については仮に含み損が生じたとしても純損益に計上する必要はない上に、毎期の配当金は純損益に計上することができる形になっています。少なくとも、日本企業にとっては、純損益の観点から言えばプラスの容認規定となっています。
ちなみに、「償却原価」区分の場合は、関連損益については純損益に計上することになります。(「その他包括利益」の計上は認められません。)
IFRS第9号の大所は以上になります。その他の各論として、
・公正価値オプション (「償却原価」区分の要件を満たしても、「公正価値」区分にできる)
・再分類 (「償却原価」区分と「公正価値」区分の事後の変更)
・組込デリバティブの取扱い
などの規定がありますが、詳細については、今回は割愛させて頂きます。。。
いずれにしても、実務上は、基準を参照しながらやるのみという点では、そんなに悩ましい論点は意外と少ないのではないか、と勝手に考えています。
但し、非上場株式の評価については、引き続き留意が必要です。
結局、金融商品は、
(1)「償却原価」区分
(2)「公正価値」区分 (損益を純損益に計上)
(3)「公正価値」区分 (損益をその他包括利益に計上)
の3つのいずれかに区分することになるのですが、非上場株式は基本的に(3)に区分されるケースが多いように思います。そうなると、非上場株式を「公正価値」にて評価する必要性があるのですが、その考え方(評価方法)は結構な悩みどころだと思います。
この点については、「公正価値の測定」という内容で、IASBから公式基準が公表される予定なので、その辺を見ながら、引き続き検討する必要があると考えています。
IFRS第9号については、現状こんな感じでしょうか。
ということで、また次回!!

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