第19回 フレームワーク その2

みなさん、こんにちは
最近の暑さで、早くも夏バテ気味の寺田です。
今回は、前回(第18回)に引き続き、フレームワークについて触れたいと思います。
フレームワークの具体的な記載内容についてですが、基本的には、会計論的に当たり前の事が書いてある感じです。
ですので、いくつかポイントを絞って、もう少し詳しく内容を見てみたいと思います。
(まともに内容を見ると、このコラムが冗長になってしまいそうなので。なお、フレームワークが冗長だと言っている訳ではありませんので、悪しからず。。。)
1.フレームワークの目的
フレームワークの目的として、以下の項目を挙げています(一部抜粋)。
・会計基準の開発と見直しに役立てる
・IFRSの主題となっていないテーマに対処する際に役立てる
・監査人が意見を形成する際に役立てる
・F/Sの利用者が財務情報を解釈するために役立てる
・IFRSの形成に対するアプローチに関する情報を提供する
いずれも、フレームワークが特定の会計基準(IAS○号とか、IFRS○号)の根幹となる位置づけであることを示しています。
その上で、上から4つ目の「F/Sの利用者が財務情報を解釈するために役立てる」が、特に重要なポイントだと思われます。フレームワークでも、その目的の記載の後に、「F/S利用者の情報ニーズ」について、さらに踏み込んだ説明をしています。
フレームワークでは、F/Sの利用者として以下を列挙しています。
・投資家
・従業員
・貸付者
・取引業者(仕入先、得意先、その他)
・政府及び監督官庁
・一般大衆
そして、上記利用者の情報ニーズについて説明した後に、「投資家のニーズを満たすF/Sを提供することによって、その他利用者の大部分のニーズを満足させることになる。」と結論づけています。つまり、IFRSは投資家のニーズを満たすことを主たる目的とした財務報告基準である旨を、フレームワークにおいて明示している点がポイントです。
余談ですが、IFRSの本質論として、「IFRSとは、投資家への情報開示ツールである」という考え方があるとすれば、その拠り所はこの辺にあると思われます。また、基準の名称が、IAS(国際会計基準)からIFRS(国際財務報告基準)に変更されていますが、ここで基準の前に付される単語が「会計」から「財務報告」に変わっている点にも、そのニュアンスが表れていると思われます。
ここで、大事になってくるのは、IFRSの主たる目的である「投資家のニーズ」です。
フレームワークでは、「投資家の情報ニーズ」を以下のように説明しています。
「リスクを伴う資本の提供者やそのアドバイザーは、自らの投資に内在するリスクと投資から得られる利益に関心を有する。投資家は、購入、保有又は売却に際しての意思決定に役立つ情報を必要とする。また、株主は、企業の配当支払能力の評価を可能にする情報に関心を持つ。」
キーワードは、1文目にある「リスク」と「利益」(リターン)です。
また、併せて、以下のような説明もしています。
「企業の経営者は、F/Sの作成及び表示に関する第一次的な責任を有する。公表されるF/Sは、当該企業の財政状態、業績及び財政状態の変動に関して経営者が用いる情報に基づいている。」
以上の2つの引用箇所(「 」の箇所)を僕なりにまとめると、「経営者が把握している企業のリスク及びリターン情報を財務諸表に反映すること」がIFRS(フレームワーク)の目的である、ということが出来ると思います。
2. F/Sの目的
フレームワークでは、「F/Sの目的は、広範な利用者が経済的意思決定を行うにあたり、企業の財政状態、業績及び財政状態の変動に関する有用な情報を提供することにある。」と定義しています。
その上で、キーワードとなる「財政状態、業績及び財政状態の変動」に関連して、
・「F/Sの利用者が行う意思決定には、現金及び現金同等物を生み出す企業の能力を評価し、それらの発生時期及び発生の確実性を評価することが必要となる。」
・「企業の財政状態、業績及び財政状態の変動に焦点を当てた情報が提供される場合、利用者は、この現金及び現金同等物を生み出す企業の能力の評価をより容易に行うことができるようになる。」
と、しています。
つまり、F/S作成目的は、「F/S利用者が企業の将来キャッシュフローを評価・予測するための有用な情報を提供すること」と、言うことが出来そうです。もっと言うと、ここでいうF/S利用者は投資家です。
3. F/Sの質的特性
ここでいう「質的特性」とは、財務諸表が提供する情報を利用者にとって有用なものとする属性を意味します。端的に言えば、F/Sが具備しなければならない要件です。
フレームワークでは、その質的特性として以下の4つを挙げています。
・理解可能性 :情報が利用者にとって理解しやすいこと
・目的適合性 :利用者の意思決定のためのニーズに応えたものであること
・信頼性 :重大な誤謬や偏向がなく、事実を忠実に表現していること
・比較可能性 :企業の期間比較、企業間比較ができること
「目的適合性」と「信頼性」について、補足説明したいと思います。
まず、「目的適合性」についてですが、このコラムの「1.フレームワークの目的」で記載したように、上記定義の「利用者」は、「投資家」と読み替えて差し支えないと思います。ですので、F/Sの質的特性として、「投資家のニーズに応えた情報提供をしていること」が改めて規定されていると考えられます。
また、「情報の目的適合性は、その性質と重要性によって影響を受ける。」旨の記載もあります。つまり、投資家のニーズにはない些細な情報提供は、F/Sの質的特性の観点からは必要ない、と間接的に明文化しています。
フレームワークでは、この重要性について
・利用者の経済的意思決定に影響を及ぼす場合
・質的特性というよりは、閾値又は境界線を示すもの
と、説明しています。
特定の会計基準(IAS○号とか、IFRS○号)では、従来の日本基準でいう所謂「重要性基準」についての規定がないケース(あったとしても、重要性の目安の規定はなし)が多いのですが、フレームワークで「重要性」に関する考え方が規定されているので、この「重要性」の考え方を必要に応じて企業の(IFRS適用下の)会計方針に反映させることは可能であると思われます。但し、必要以上の拡大解釈は危険ですが・・・
次に、「信頼性」ですが、フレームワークでは「信頼性」の説明をするために以下の概念を用いています。
・表現の忠実性  (会計事象の識別や測定が困難な場合)
・実質優先  (単なる法的形式に従うことが適切でない場合)
・中立性  (偏向がないものでなければならない)
・慎重性  (見積りを用心深く、又は不確実性に係る情報開示)
・完全性  (重要性とコストの制約範囲内)
なお、「慎重性」について、「過度の慎重性は、中立性を失い、信頼性を損ねるので容認されない」旨の記載があります。日本基準でいう「過度の保守主義」に相当する考え方です。
「目的適合性」と「信頼性」の関係について、「目的適合性があっても信頼性のない情報は、利用者の判断を誤らせる」旨の記載があります。
例えば、ある企業に大きな訴訟案件(被告)が発生した場合に、「目的適合性」の観点からは訴訟損失引当金を計上すべきであるが、関連情報が不足しており「信頼性」のある引当金額が算定できないケースです。その際には、当該会計処理の「目的適合性」と「信頼性」のバランスを勘案して、会計処理を検討する必要があります。
また、「目的適合性と信頼性を有する情報に対する制約」として以下の3つの概念が説明されています。
・適時性 :目的適合性の観点からはより早く、信頼性の観点からはより遅くのバランス
・ベネフィットとコストとの均衡 :開示情報の価値と、その手間とのバランス
・質的特性の間の均衡
また、「比較可能性」も大事なポイントです。
IFRSの価値は、全世界の共通会計基準となることによって、国際企業間比較を容易にすることにあります。その点では、IFRSの内容というよりは、世界各国の適用(又は普及)によって「比較可能性」が高まっていくと言えるでしょう。
また、IFRSにおける会計処理の遡及適用も、期間比較の観点での「比較可能性」を担保する制度です。例えば、当期において会計方針の変更があった場合に、前期F/Sも同様の変更を行い、2期間比較を容易にすることが出来ます。この制度は、日本基準においても適用される予定です。
4. F/Sの構成要素、及びその認識
このコラムの「2.F/Sの目的」の箇所で、フレームワークでは、「F/Sの目的は、広範な利用者が経済的意思決定を行うにあたり、企業の財政状態、業績及び財政状態の変動に関する有用な情報を提供することにある。」旨の記載があることをご紹介しました。
この記載に関連して、「財政状態」と「業績」の観点から次第にブレークダウンしていく形式で、フレームワークはF/Sの構成要素を説明しています。と言っても、結局は、「資産」、「負債」、「持分」、「収益」及び「費用」に落ち着くのですが。。。
ここで、フレームワークのイメージを掴んで頂く意味で、各項目の定義をご紹介します。
資産 :過去の事象の結果として企業が支配し、かつ、将来の経済的便益が当該企業      に流入すると期待される資源
負債 :過去の事象から発生した企業の現在の債務で、その決済により、経済的便益を有する資源が当該企業から流出することが予想されるもの
持分 :企業のすべての負債を控除した残余の資産に対する請求権
収益 :当該会計期間中の資産の流入若しくは増価又は負債の減少の形をとる経済的便益の増加であり、持分参加者からの出資に関連するもの以外の持分の増加を生じさせるもの
費用 :当該会計期間中の資産の流出若しくは減価又は負債の発生の形をとる経済的便益の減少であり、持分参加者への分配に関連するもの以外の持分の減少を生じさせるもの
「収益」と「費用」の定義を見て頂くと、何となく「B/S重視」のニュアンスが伝わってくるのではないでしょうか。
と、各構成要素を定義づけた上で、フレームワークでは「認識とは、構成要素の定義を満たし、以下の認識基準を満たす項目を、F/Sに組み入れるプロセスである」と説明しています。ここでいう「以下の認識基準」とは、以下の2つです。
・当該項目に関連する将来の経済的便益が、企業が流入するか又は企業から流出する可能性が高く、かつ、
・当該項目が信頼性をもって測定できる原価又は価値を有している
ここまで来ると、もうお気づきの方も多いと思うのですが、以前のコラムで取り上げた各会計基準において規定されている内容とほぼ同一です。言い換えると、フレームワーク上のF/S構成要素の定義、及びその認識基準を、各会計基準に展開しているという体裁になっていると思われます。
なお、F/S構成要素の認識基準に関して、「将来の経済的便益の蓋然性」と「測定の信頼性」については、フレームワークにおいて以下のように説明されています。
「将来の経済的便益の蓋然性」
・将来の経済的便益の流入や流出についての不確実性(企業が活動する環境を特徴づける不確実性と一致)の評価は、F/S作成時に利用可能な証拠に基づいて行われる。
「測定の信頼性」
・多くの場合、原価又は価値は見積らなければならない。合理的な見積りの採用は、F/S作成に必要不可欠であり、その信頼性を損なうものではない。
・しかし、合理的な見積りができない場合には、当該項目はF/Sに認識されない。
・認識基準を満たさない項目が、その後の状況あるいは事象の結果として、後日になって認識されることがある。
そして最終的に、資産、負債、収益及び費用の認識基準をそれぞれ、以下のように規定しています。
・資産は、将来の経済的便益が企業に流入する可能性が高く、かつ、信頼性をもって測定できる原価又は価値を有する場合に、貸借対照表に認識される。
・負債は、現在の債務を決済することによって経済的便益を有する資源が企業から流出する可能性が高く、かつ、決済される金額が信頼性をもって測定できる場合に、貸借対照表に認識される。
・収益は、資産の増加又は負債の減少に関連する将来の経済的便益の増加が生じ、かつ、それを信頼性をもって測定できる場合に、損益計算書に認識される。
・費用は、資産の減少又は負債の増加に関連する将来の経済的便益の減少が生じ、かつ、それを信頼性をもって測定できる場合に、損益計算書に認識される。
「F/Sの構成要素」の定義と同様に、ここでも「収益」と「費用」の箇所を見て頂くと、やはり何となく「B/S重視」のニュアンスが伝わってくるのではないでしょうか。
ちなみに、B/S重視であるIFRSのフレームワークにおいても、日本でいう「費用収益対応の原則」に相当する記載はあります。とは言え、「費用は、費用収益の対応に基づいて認識される。しかし、費用収益の対応概念の適用は、資産又は負債の定義を満たさない貸借対照表項目の認識を許容するものではない。」という記載もあり、あくまで「B/S重視」の範疇の考え方です。
以上、現時点で「フレームワーク」に関して知っておきたい事はこんな感じかな、と思います。当初の予定より、大分長くなってしまいましたが・・・
あと、今回は「 」が多かった気もします。が、より分かりやすく(!?)するために止むを得なかった、ということでお許し下さい。
ということで、今回はこの辺で。。。。

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