第8回 従業員給付について

みなさん、こんにちは。
もうこの時期は、夏休みを取られている方もいらっしゃるかと思いますが、粛々と月イチ連載を続けている寺田です。
今回は、従業員給付について書きたいと思います。
国際会計基準では、IAS19号において、「従業員給付」(Employee Benefit)として色々と規定されています。
日本でいうと、人件費関係全般に関する規定というイメージです。
以前、「収益の認識」の時にも触れましたが、日本基準だと人件費関連を総括的に定めた規定はありませんが(企業会計原則とか、その後に追加的に出される追加的な実務指針などで、それなりに網羅的に規定はされていますが・・)、IASだと19号がメインになります。
具体的には、IAS19号では、従業員給付を以下の4種類に分けて、それぞれ規定しています。
①短期従業員給付
②退職後給付
③その他の長期従業員給付
④解雇給付
なお、⑤として「株式報酬給付」が挙げられていますが、それはIFRS2号において別途規定されています。(日本でいうストック・オプション等に関する会計基準に相当します)
また、IAS26号において「退職給付制度の会計と報告」が規定されており、年金基金等における会計処理の規定が別途規程されています。日本では、それに相当する会計基準は、一般的な会計基準設定機関によっては定められておらず、厚生労働省の省令などによって定められています。
基準の体系こそ違いますが、国際会計基準でも日本基準でも、基本的に発生主義の観点で人件費を認識しているという点では、本質的に大きな差異はありません。
但し、以下の3点について、具体的な取扱いが異なると思われます。
①有給休暇引当金
世界的に従業員の福利厚生の観点から有給休暇制度が普及されていますが、この制度に対する会計処理がIASと日本基準では大きく異なります。
日本基準では、有給休暇に関しては特に会計上は考慮することなく、給料の締め日において発生した月給を当該月の発生費用として認識しています。有給休暇の発生については、会計事象として捉えていません。
これに対して、IAS(確かUSGAAPも)では、有給休暇の発生については、会計事象と捉え費用認識することになります。つまり、将来における従業員の有給休暇の消化は、企業にとっては損失であり、その将来損失が当期以前に起因するものであれば、当期末において引当計上するという考え方です。
この考え方自体は、日本基準における引当の要件にも馴染むような気がします。ただ、感覚的には、そこまでするのかって気もしますが・・・
この場合の引当金額は、決算日現在で累積した未消化の取得分のうち、将来に消化される予想日数に係る企業負担額を算定することになります。
例えば、毎年5日の有給の発生を認めている企業で、期末の平均未消化日数2日・従業員8人・翌期の予想平均有給消化日数が6.5日であり、有給消化時はまずその年度に発生した有給取得分から先に消化した後に過去の繰り越し分を消化する場合には、(6.5日-5日)×8人=12日分に相当する費用と引当金を、決算時に認識することになります。
その前提として、経理上は、有給消化時においてその消化に関する費用を別途認識している必要があります。
≪仕訳のイメージ≫
ある月に、月給22万円のAさんが20日勤務し、2日有給を消化した場合。

借方 貸方
従業員給付費用・給与 200,000 現金預金 220,000
従業員給付費用・有給 20,000  -  -


又は、有給休暇引当金の目的取り崩し
②退職給付引当金
基本的な考え方は、両者の大きな違いはありません。但し、以下の2点については違いがあると思われます。
(1)保険数理差損益(日本基準では数理計算上の差異の償却に相当)
日本基準:平均残存勤務期間内の一定年数で均等償却。発生時の一括償却も可
IFRS:未償却累計額のうち、年金債務と年金資産のいずれか大きい方の10%以内に収まる部分は償却しなくても良い(回廊方式)。回廊を超過した額は、平均残存勤務期間以内の期間で償却。
この違いは、会計基準としてB/S重視なのかP/L重視なのか、という点に起因すると思います。
(2)過去勤務費用(日本基準では過去勤務債務の償却)
日本基準:平均残存勤務期間内の一定年数で均等償却。発生時の一括償却も可
IFRS:受給権が確定していない従業員に係る分は、受給権が確定するまでの平均期間で定額償却(一時償却や規則的な早期償却も可)。受給権が確定している従業員に係る分は、即時費用処理。
③解雇給付
IAS19号では、企業が会社都合で従業員の雇用を打ち切ったり、自発的な早期退職を勧奨する場合に、解雇従業員数・解雇給付額・実行時期を含む公式計画を策定して明示的に約束した時点で、解雇給付に関する負債と費用を認識することが明示されています。その際には、自発的退職の勧奨に係る解雇給付額は、勧奨を受け入れると見込まれる従業員数を基礎として算定されることになります。さらに、解職給付が決算日から12か月以上経過した後に支給される場合には、割引現在価値によって算定されることになります。(基本的に、IFRSでは現在割引価値が全ての基本である、と個人的には感じています。ここでもそうですね。)
日本では、俗に言うリストラ引当金に含まれる概念であると思われます。但し、日本基準上では、あくまで一般的な引当金の要件に照らして検討され、特にリストラ時における個別的な規定等はありません。
ということで、この原稿を書いたことによって、僕も夏休みへの突入モードになってきました。
みなさん、良い夏休みを。

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